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イースター島・マタベリ空港を降りると事前の情報通り、ターンテーブルのうしろに各民宿のブースが並んでいた。ここで決着をつけてしまうのがいいだろうと考えて片っ端から話を聞いてまわっていたのだがそういうことをしている奴はごく少数で、ほとんどの観光客はばかデカいスーツケースをごろごろ転がしてさっさと外へ出ていってしまった。ツアーの客が多いんだろうか。個人でも予約してから来る人が多いのだろう。 そういう超買い手市場の中、ひときわ目を引いたのが「CABANAS VAIANNY」という民宿のブースだった。この青三角はユースホステルのマークじゃないか。イースター島まできてユースに泊まるのもネタとしては面白い。そう思ってオバちゃんの話を聞いてみると条件もいい。ツアーレベルのホテルが90ドル、海の見える民宿が40ドル、おっここいいじゃんと乗り気になって価格交渉までした安宿ですら素泊25ドルのところ、「CABANAS VAIANNY」は完全個室・ホットシャワー・トイレ・バスタオル付で一泊15ドル。しかも朝食が出る。写真で見る限り部屋もなかなかだし、集落の中にあって立地も悪くない。 これは絶対に罠だ。 そう疑いながら顔はニコニコ笑って「あいうぉんとぅすてい」と右手を差し出す俺。ひでえ所だったら他へ移ればいい。そう考えてとにかく一泊してみることにしたのだ。
と、ここで早くも疑問が湧いてきた。ユースなのになんで完全個室なんだ?その前に一泊15ドルが会員料金かどうか確認しておかなければ。会員料金じゃないんだったら更に安くなる可能性がある。ユースホステルの会員証を見たオバちゃんは平然と言い放った。 うちはユースホステルじゃないよ。 ほらやっぱり罠だ。 オバちゃんの説明は「ここのブースはこっち半分をうち、むこう半分をユースで使っている」だった。確かに彼女はブースの真ん中ではなく端へ寄って立っていたし「うちはユースホステルだ」とは一言も言っていない。ユースの勧誘がいなかったから「CABANAS
VAIANNY」とユースの看板が一つの宿のものに見えてしまっていただけなのであった。まぎらわしいなぁもう。
結論からいうと「CABANAS VAIANNY」は罠でもなんでもない純粋にいい宿だった。アメリカ人、カナダ人、ニュージーランド人、青森県人、いろんな人が泊まっていたけどみんな「ここはいいところだ」と言っていた。それはオーナーのオバちゃん、テレサ・アラキさんの人柄が大きいように思う。 荒木なのか新木なのかはわからないけど、テレサさんは日系チリ人だ。(イースター島はチリ領)「勤勉なニッポン人」を絵に描いたような人で、誰かがチェックアウトしていった部屋には即座にモップをかけ、連泊中の部屋でも頼めばベッドメイキングでも掃除でも何でもやってくれる。朝食は毎朝8:30にしっかり用意されていて、スペイン語しか話せない家族の中にあってただひとり流暢な英語を話す。流暢すぎて俺には半分ぐらいしか聞き取れなかったくらいだ。チェックアウトの時に「宿帳にひとこと書いてくれ」と言われたので、日本語で「ここへ泊まれた幸運に感謝!」と書いて英語で説明しようとしたら、何書いてあるかわかったから説明しなくていい、という仕草をしたあと自信に満ちた笑みを浮かべて 「来年の今頃来てくれれば私は日本語を話すよ」 と言った。この人なら本当にやるもしれない。そう思った。 英語なんか話せなくても民宿はやっていける。実際にそういう民宿もある。(「地球の歩き方」にも載っている)ツーリストインフォメーションがスペイン語しか話せず、スペイン語の地図しか置いていないような島なのだ。(誰のためのツーリストインフォメーションだよ)日本語が話せたからって何になるのさ?そう考える奴がいる一方で「英語は話せるようになったから欧米人は大丈夫。次は日本語だ」と自己研鑽に励むテレサさんがいる。彼女を見ていると日本がきっちり経済発展してきた理由がわかる気がする。日系人は日本人とは違うし実際の日本人が全員勤勉なわけでもないんだけど。
テレサさんは勤勉なだけではなく親切で世話好きな人だった。手で洗えないくらい洗濯物を貯めこんでしまったので「洗濯機を貸してくれ」と頼んだら「洗ってあげるから貸しなさい」と言って袋ごと持っていき、干して取りこむところまで本当に全部やってくれた。当然カネは受け取ってくれなかったので自主的にマルボロゴールドを三箱買ってプレゼントしたくらいだった。 「クニのカアちゃんみたいだよな」 俺のつぶやきを聞いてニュージーランド人のキャサリンは笑った。 「ほんと。マザー・テレサよね」 中国系アメリカ人のハン君などテレサさんを「マム!」と呼んでいた。そんなことさらっと言えちゃうなんてほんとアメリカ人だよな。
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