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「チダユージを知ってる?」 イースター島最終日の朝、テレサさんが言った。チダユージ?なにそれ? 「知ってますよ。同じ青森県人です」 大声で工藤さんが答えた。満足そうに笑うテレサさん。なんだよなんだよ教えろよ。工藤さんとテレサさんがほぼ同時に叫ぶのを聞いて合点がいった。 「アニータ!!!」
俺は「チリに行きます」と言って有休を取得していた。「イースター島」よりも「チリ」のほうがインパクトがあるから、が理由その一。イースター島の航空券が取れなかったらパタゴニアへ行こうと考えていたのが理由その二。「チリ」と聞いて返ってくる言葉はいつも同じで「アニータ」だった。俺も、ほとんど全ての日本人もきっと同じではないだろうかと思う。チリ観光協会はアニータに報奨金を出してやるべきである。出したそばから裁判所に差し押さえられるのだろうが。
アニータはチリでどう扱われているのだろうか。ワイドショーで見る限りまるで芸能人である。俺には全っ然関係ないのになぜか不愉快だ。ラテン系だからしょうがないのか。って理屈になってないなこれ。チリ人に聞いてしまったほうが早い。テレサさんに質問してみた。アニータってチリ人にはどう思われてるんですか? 「頭のおかしな奴だってみんな言ってるわよ」 そりゃそうだわな。アニータは金の亡者だ、と。裁判所に差し押さえられたものとは別に隠し資産があるようだが彼女の相手をする者は誰もいない。裁判が終わって刑務所を出てもひとりで酒を飲みながら生きていくしかないだろう。 「アイ ニードゥ マネー」 ゆっくり、はっきり、大きな声でテレサさんは言った。 「アイ ニードゥ マネー。 バット アイ ドント ライク マネー」
アニータの自伝をテレサさんが見せてくれた。真っ赤な表紙に「私の名前はAnita Alvaradoです」と日本語で書かれている。本文はスペイン語なのだが、眺めているだけでも何が書いてあるのかはだいたい想像がつく。写真多いし。 「これはサンチャゴの路上で買ったコピー本だから安いかわりに印刷が悪い。正本がそこのスーパーに売っている」と聞いて即座にスーパーへ走った。本当に一冊だけ置いてあった。手の届かないところに陳列されていたのでジーコ似の店員をつかまえて 「アニータ!」 と叫んで指さしたら笑いながら取ってくれた。8000ペソ=12ドル。高かったけど自分への土産に買う。へっへっへ。こいつは日本に帰ってから自慢できるぞ。スペイン語だから誰も読めないんだけどな。 「これって日本で売ってないのかなあ」 一冊しかない本を先に買われてしまった工藤さんがくやしそうに言った。 「そのうち日本語訳が出るんじゃないすか?俺が編集者だったら絶対やりますよ」 言いながら心の中でガッツポーズを決める俺。うははは勝った。・・・しかし、簡単に勝たせてくれるほど世の中甘くはない。
帰国翌日、天王寺の本屋で真っ赤な表紙の本が目に入った。もしやと思って手に取ってみるとやはり「私の名前はAnita Alvaradoです」だった。ど素人の俺が気付くまでもなく出版社はとっくの昔に日本語訳本をつくって売り出していたのであった。立ち読みしてみるとイヤになっちゃうくらいよくわかる。そりゃそうだ。日本語で書いてあるんだから。しかもスペイン語版よりも安い。日本って本が安いんだよな・・・。 買うのはくやしいので図書館かBOOK OFFで見かけたら読んでみようと思います。
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