(13)ゲストハウス



 タヒチではじめてゲストハウスのドミトリーに泊まった。「ゲストハウスのドミトリー」と聞いて連想するのは

1)男女混合の相部屋
2)ボロい建物、狭くて暗くて湿度の高い部屋、冷暖房不備
3)同地区の他ホテルに比べて宿泊料金がバカみたいに安い
4)客の八割が欧米系のバックパッカー、残りの二割が日本人

 実際にイメージそのままだったので笑ってしまった。いや、笑っていられるほど快適ではなかった。
 
 
 

 パペーテ市街のゲストハウスに泊まることになったのは狙っていた宿が満室だったからというただそれだけの理由だった。それでも電話をかけて「部屋はある。タクシーで来い」と言ってもらえた時には心の底からほっとした。24:00少し前だったから冷房のない空港で一夜を明かすには時間が長すぎると思っていたからである。
 
 
 

 タクシーでなければ絶対にたどりつけない場所にそのゲストハウスはあった。ドイツ人のニイちゃんがチェックインしようとしているところで、彼も同じフライトでイースター島から到着したばかりだという。

 「空港でキミを見かけたよ。一緒だってわかってたらタクシー代半額で済んだのにね。何人かに聞いてみたんだけど同じ宿だっていう人がいなかったから一人で来ちゃったんだ」

 深夜割増料金のタクシーは¥2500。ドミトリーが一泊¥2000。ドイツ人バックパッカーでなくとも「馬鹿馬鹿しくてやってらんねえぜ」である。一人部屋にするかドミトリーにするか聞かれて二人とも迷わずドミトリーを選択した。冷房のない一人部屋など考えただけで息苦しくなる。
 

間違えて購入した炭酸入りアイスティー。激マズ

 

 案内された部屋は二段ベットがコの字型に三つ並んだ八人部屋だった。計算が合わないのはロフトにあと二人分のベッドがあるからだ。俺たち二人が入って満員になった。部屋の電気は消えていて裸のニイちゃんやキャミソールのネエちゃんがマグロのようにごろごろ転がっている。ベッドには手すりも何もないから丸見えだ。

 こんなところでよく寝られるな。
 
 
 

 喉が渇いたのでジュースを買おうとしたら小銭が足りなかった。ロビーでテレビを見ていた白人のニイちゃんに50フラン恵んでもらう。ふだん俺は砂糖が入っていない冷たい飲物を飲んでいるのだがタヒチにそんなジュースは存在しない。しょうがないのでファンタを買ってテレビを見た。ビートたけしが出てきて日本語をしゃべっている。邦画じゃねえかこれ。50フラン恵んでくれたニイちゃんが連れに「ビートたけしと北野武の違い」を説明している。そんなことまでよく知ってるな。

 部屋へ戻って上段ベットによじ登って寝る。枕とシーツしかなくて「おいおい掛け布団がないじゃんかよ」と思ったのだが実際に寝てみるとそんなものは全く必要なかった。

 暑くて眠れん。

 六畳に大人が八人で空調は扇風機一つ。そりゃキャミソールで寝るわけだ。持久戦を覚悟してウォークマンを耳に突っ込みとにかく横になった。扇風機ががこがこ鳴っている。あれってほんの少しでも冷房効果があるのだろうか。あると信じよう。
 
 
 

 翌朝、寝ぼけ頭のまま市場で朝飯を物色していたらイースター島で何度も遭遇したアルゼンチン人カップルに再会した。朝まで空港にいるつもりだったけれどやめて俺と同じゲストハウスに泊まったのだそうだ。

 「寝られた?」
 「いやあ。でもあのまま空港にいるよりはマシだったろうね」

 会社員が多数を占める中で彼らはただの旅人だった。自分でそう言ったのだ。

 「大学はこのあいだフィニッシュしたんだ」
 「じゃ今は何やってんの?」
 「旅行をしているのさ」

 大学はフィニッシュしたけれどまだ次のスタートは切っていないのだろう。「外人はうらやましいねえ」と遠い目をしている場合ではない。日本でもこういう若者はどんどん増えているのだ。学校出てもぜんぜん就職できないんだから。
 
 
 

 翌日は宿へ泊まらずレンタカーを空港に停めて寝た。涼しいのはよかったけれど狭くて寝心地は最低で朝には身体の節々がしっかり痛くなっていた。シャワーはカヌーがたくさん置いてある港の公園で浴びた。「シャワー」といってもジジイのチンポコみたいな蛇口から冷水が一本出てくるだけの情けないやつである。トランクスいっちょうで泡まみれになりながら星空を見上げた。

 ♪大人になって思い出すだろう

 鼻歌を歌って、すぐに苦笑した。
 
 
 

 オマエはもう大人だろうが。
 


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