(14)モツヌイピクニック



 陸上を動き回ってモアイを眺めるのにもいいかげん飽きてきたので海へ出た。「地球の歩き方」に「シュノーケルトリップ75ドル」と書かれていて、ちょっと高いなと思いつつダイビングショップへ行ってみたら、モツヌイ往復にシュノーケリングつき:所要二時間で25ドル、だった。75ドルって何だよ。ダイビングの値段と間違えて載せたとしか思えない。「島一周シュノーケリングトリップ」とか別コースがあるのだろうか。

 スペイン語しかできない店のオヤジとものすごい苦労をしながら打ち合わせをし、それでは木曜日に会いましょうと約束をして別れた。
 
 
 

 今回の旅行で実感させられたのが日本人と欧米人の曜日感覚の違いだった。「いつ島を出るんだい?」という話になった場合、日本人旅行者は普通「一月八日」と日にちで答える。俺だってそうだ。これが欧米人だと「木曜日」になる。旅行者に限らずイースター島やタヒチの住民もスペインとフランスの影響を強く受けているので欧米風である。

 だから彼らと話をしていて「一月八日」と言うと「何曜日だ?」と当たり前のように返ってくる。これがすごく困る。何曜日どころか今日が何月何日なのかさえ気にしていないことが多いからだ。

 この違いはどこから生まれるのだろうか。よくわからない。ただ、乗り物は曜日で動くし博物館は曜日で閉館日が決まっているから、旅行に関しては日にちよりも曜日をおぼえておいた方が役には立つ。
 
 
 

 木曜日の16:00。小船に乗り込んで出発。申し込んだときには俺を含めて三人だった参加者は八人に増えていた。地元サーファーをかきわけつつ船は進んでいく。波が船底をごんごん叩く。海から見るイースター島は本当にすさまじい断崖ばかりだ。あそこの崖を降りてきてこの海を泳いであの岩場へ上陸して海鳥の卵を一番最初に取った奴が「鳥人」として一年間君臨する。そんな伝説はどうしても信じられない。でも実話なんだよな。
 


 

 十五分ほどで問題の離れ小島(というより離れ岩)モツヌイに到着。マスクとシュノーケルを装着して付近を泳ぎ回る。底は深く、水は冷たく、うねりは強い。魚もあまりいない。でも透明度は抜群だった。青い海の中に光の筋がぶわーっと差していてアニメ映画のように美しい。昼飯に一口だけ食ってすぐやめた激不味缶詰めを海中にぶちまいたら底のほうから魚が上がってきた。なんだ、ちゃんといるじゃないか。

 船に戻るとイギリス人のバアちゃんが「すいぶん用意がいいわね」と俺の防水袋を指さして言った。これからどうするんですか?と質問したら「今週はここでシュノーケリング、来週はドイツでスキーイング」という豪快な答えが返ってきた。ダイビングをやった日本人のニイちゃんは船に酔ったらしく港へ着くまでずっとゲーゲー吐いていた。潜ってる最中じゃなくてよかったな。
 
 
 

 宿へ帰って出発準備をしていると、テレサさんが険しい表情で近寄ってきて「ダイビングをやったの?」と言った。「あなたはこれから飛行機に乗るんだからダイビングをやっちゃダメでしょう」

 「わかってます。ぼくがやったのはシュノーケリングだから問題ないですよ」

 そう応えるとテレサさんはニッコリ笑った。欧米人の客に同じ説教をしたら迷惑がられるに違いない。相手を選んで言ってるんだろうけど。
 
 
 

 搭乗を待つ間、空港の喫茶店で空きっ腹にピスコサワーを飲んだ。あっという間にいい気分になり、めちゃめちゃハイテンションのままゲートへ向かう。日が暮れて暗くなった滑走路をフラフラ歩いているうちに感傷的な気分になった。タラップをあがる直前、ラパヌイ語、スペイン語、日本語の順番で、思いっきり叫んでみた。

 「イオラナ ラパヌイ! チャオ イスラ・デ・パスクア! さようなら イースター島!」
 
 
 

 心の底から、行ってよかった。「そんなところまでよく行ったねえ」といろんな人に言われたけれど、旅行そのものより準備のほうがよっぽど大変だった。

 年末年始の海外旅行なのに航空券を探しはじめたのが一ヶ月前。見つけた航空券は三十万円。帰りのイースター島〜タヒチが満席。キャンセルが出てどうにか取れたもののイースター島滞在が三日間。ラン・チリ航空へ何度も電話をかけてイースター島滞在を七日間へ延ばすことに成功。ただし変更手数料が二万円。・・・

 「モアイが呼んでくれたんだ」などとロマンティックに言うつもりはない。最後まで粘り続けてつかんだイースター旅行だ。「行きたい」という願望を己の怠慢で圧殺せずに済んでよかった。
 
 
 

 次はどこへ行こうか。アンコールワットか。バラナシとポカラにも惹かれる。夏休みは日本にしよう。利尻富士に登りたい。その前に皮膚炎をちゃんと治しておかないとな。左足が良くなったと思ったら右足にも出てきやがった・・・。
 


以上!

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