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まだまだ明るい夕方20:00。「なんかおもしろいことないかナー」と村の海岸通りをぷらぷら歩いていたら芝のグラウンドでサッカーをしている少年たちをみつけた。モアイとサッカーの組み合わせ。こいつはおもしろい。ぼんやり眺めているうちに今度は仕事を終えた青年たちがクルマやバイクや馬でぞろぞろ集まってきた。恰好だけは一番上手そうな青年が声をかけてくる。「どっから来たんだ?」「日本だ」「そうか。ハポネ(日本人)か。この島はどうだ?気に入ったか?」「ああ。とてもいいところだ」「そいつはよかった。ところで日本はいいところか?」 日本は別に悪いところではない。国じゃなくて企業だったらどこの銀行も融資してくれないくらいの債務を抱えていて、毎年すさまじい数の自殺者を出しているけれども、俺個人の生活はリッチ&ピースそのものだ。しかもその生活を大した苦労もなく手に入れている。だから、青年の問いに力強く「イエス!」と答えてしまってもよかったはずなのだが、なぜか少し考えてしまった。更に少しの間をおいて絞り出すように答えた。 「アイ ホープ ソウ」 「そうだといいね」・・・「なに言ってんだコイツは」青年はあきれた表情を一瞬だけ見せて、すぐに立ち上がると力強く言った。 「ハポネ。ウォーミングアップをしよう!」
彼らと一緒に練習をはじめた俺は、ミニゲームがはじまって五分もしないうちにギブアップしてもとの見物人に戻っていた。青年たちは遊んでいるのではなくちゃんとコーチがついた島のサッカーチームの練習をしているのである。そんなものに一日五百メートル歩行の俺がついていけるわけがない。 「こんどサンチャゴにセレクションを受けに行くんだ」 サッカーボールを人差し指に乗せてひゅんひゅん回しながら青年は言った。どうりでサッカー選手らしく見える服装をしているわけだ。素人目にも彼がプロのレベルにぜんぜん達していないことははっきりわかっていた。テクニックがなくても何か特徴があるのならいい。その日の彼は集団の中へ簡単に埋没してしまう平凡な一プレーヤーにすぎず、セレクションを受けてもスカウトの目に留まることはないだろうなと思った。ミニゲームでも彼がどこにいるのか一瞬ではわからないほどなのだ。
それでも彼は、彼らは真剣だった。練習前は完璧にふざけていて、ミーティングも寝転がって聞いているんだかいないんだかわからないような調子だったのに、ランニングがはじまるころには私語と笑顔が消え、ちょっとだけ技術練習をしてすぐにはじまったミニゲームでは闘志をむきだしにしてボールを奪い合っていた。ヘディングの競り合いで額をぶつけて目を押さえている奴、肘討ちをくらって悶絶してる奴、裸足なのにスパイク履いてドリブルしてくる奴に挑んでいって本当にボールを奪ってシュートしてしまう奴。 そう。これだけマジなのに裸足でプレイしている奴が何人もいるのである。スパイクを買うカネがないのかもしれない。それにしたってスニーカーを一足も持っていないわけじゃないだろう。彼らの足はいったいどうなっているのだろう。裸足でサッカーボールを蹴って爪がはがれたりしないのだろうか。スパイクで踏まれて大丈夫なのだろうか。
チリ代表と日本代表が試合をやったらどっちが勝つのだろう。チリでやらない限り、たぶん日本が勝つような気がする。でも、層の厚さ、底辺の広さでは間違いなくチリの圧勝だ。いまはとても無理としかいいようのない青年だって、どこかで開眼してトッププロへの道を駆け上がっていかないとも限らないのだ。少なくともビール飲んで写真を撮っているだけの俺よりは可能性がある。
イースター島へやってくるに当たって一つミスを犯していた。チリ人サッカー選手の名前を調べてこなかったのだ。調べなくても一人だけアステンゴは知っていた。元チリ代表で、ワールドカップ南米予選の対アルゼンチン戦で不正を企てたとしてFIFAとチリサッカー協会から永久追放をくらった選手である。 「ニッポンの総理大臣を誰か知っていますか?」
そう答えるのとは次元が違う。いっそ「知らない」と答えてしまったほうがいいのかもしれない。ドキドキしながら待ち構えていたのだが、イースター島滞在中ついに「チリのサッカー選手を誰か知ってるか?」と聞かれることはなかった。
モアイが見張るグラウンドを裸足で走り回っていた彼らは日本のスーパースター・ナカタヒデトシを知っているのだろうか。
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