(5)一度も会えないはずの人



 渡辺美里の「eyes」にこんな歌詞が出てくる。

 一度も逢えないまま
 過ぎてくはずの人に
 ひと言 伝えたい
 逢えて うれしかったと それだけ

 旅行って「一度も会えないはずの人に会いにいくこと」じゃないかと最近思うようになった。♪それが答〜えだ!と言うつもりはない(エンヤコラ明日へ大爆走)。今の俺にとってはそうだというだけの話である。
 
 
 

 ママヤに、星を見るために一人で母島へやって来た高校生が泊まっていた。その古葉君はどんなに天気が良くても昼間は眠っていて晩飯を食い終わるやすぐに一人で外へ出ていく。そして徒歩三十分のヘリポートへ行って寝転がり朝までただひたすらずーーーーーーーーーっと星空を観察するのだ。明るくなったらママヤへ帰ってきて朝メシを食って寝る。以下帰る日まで繰り返し。高校生にしてここまで星にストイックになれる彼はいったいどんな人間なのか。
 


 

 そもそも彼の年齢がわからなかった。大学一年生が一番妥当な線に思われたのだが、いやもっと若いよという意見もあって、まあ確かにそう見えなくもないよねえなんだけど、でも星観るためだけに高校生が母島まで一人で来るか?な疑問も出て、うーんわかんねえなあ本人に聞いてみようぜ、と言っていたところにちょうど古葉君が通りかかった。

加藤「古葉君、歳いくつ?」
古葉「十六です」

 正解は高校二年生。高校二年生にしてあそこまで一生懸命になれるものがあるんだ。
 
 
 

 俺が感心したのは彼の決然とした態度だった。夜になるとすぐに星を見に行く。行ったら最後朝まで絶対に帰ってこない。夜中に雨が降った時も彼は傘を差して止むまで待ったのだそうだ。昼は他の人が何をやって遊んでいようとおかまいなく寝る。夜、星を見るために。

 もう一つ感心したのが彼は星オタクではなかったことだ。無口な人で自分からは話しかけてこないけれどこっちから質問すると短くシンプルに答えてくれた。話しかけられて迷惑そうにするわけでもなかった。

加藤「きのうの流星群どうだった?」
古葉「三時間で81個見えました」

加藤「きのうはどうだった?」
オレ「毛布持ってったんだってな。完全武装じゃん」
古葉「快適すぎて途中で眠っちゃいました」
 


 

 周囲に流されることなく、でも周囲との接触を拒絶しているわけでもなかった。帰りの「おがさわら丸」に一人で乗り込んで、しかし甲板で宴会をやっている俺たちを見つけると素直に仲間に入ってくれた。彼は自分にとって何が大事で何が大事じゃないのかわかっている大人だった。十六歳にして。
 
 
 

 古葉君のような人が「一度も会えないはずの人」なんだろう。大阪の会社員と埼玉の高校生がそこらへんですれ違っても素通りしてそれっきりだ。ママヤみたいなプライバシーもなにもない相部屋民宿だったから、会社員ではなくとりっパーとして&高校生ではなくスターウォッチャー(?)として会ったから、俺と古葉君は話ができたのである。「出会い系民宿」とでも言っておこうか。

 旅行で会って仲良くなった人たちはみんな一度も会えないはずの人だったんじゃないかと思う。一日ズレていたら出会わなかった人たち。そういう人たちの影響を受けて、そういう人たちに影響を与えながら俺はどんどん力をつけていって人生を変えていくのである。わお。大袈裟な文章になっちゃったな、おい。
 
 
 

 みんなに何がいいたいのかというと「会えてうれしかった」。それだけです。
 

以上!
 
 
 


まだつづきがあるんだよ
 
 

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